ほんのわずかな月報の文章の中にこんな記述がありました。


パリのベルネム・ジュンという有名な画廊の創始者は「絵を買ってくれるお客は私を食わせてくれる。しかし、私から何も買わない人々は、私に財産をつくらせてくれる」といっている。


するどい。この意味、分かりますでしょうか。


画商というのは絵が売れないとビジネスにはなりませんが、売れなくても名画というのは時間の経過とともに価格が自然と上昇していくから、売れなければ、それはそれでストックとしての資産が積み上がっていくということを言っています。


Qさんはこのベルネム・ジュンの言葉を受けて、「画商は売るために買うのではなくて、売らないために買うようでなければ、財産はできないのである」と綴っています。


くどいようですが、昭和47年のときの文章です。これはひょっとするとものすごい人なのかもしれないと思い、Qさん本を十数冊とりあえず買いあさりました。

邱 永漢
日本経済新聞社
1974

アマゾンのレビューはゼロですが、ものすごく参考になりました。


この本の中でQさんは、画商と不動産業を比較して語り、不動産業者でも大きく成長したのは、仲介業務で利鞘を稼いだものではなく、賃貸業にシフトしていき、ストックとしての資産を蓄えたものであると語っています。


つまり手数料では金持ちになれない。なんと高値の不動産を売りつけられたかに見えたお客さんの方が不動産の値上がりにより金持ちになってしまう一方、目端が利くと思われた街の不動産屋は不動産の価格上昇の恩恵を受けられず、旧態依然と手数料稼ぎに奔走しているという話。


これはまた画商とコレクターの関係にも同じことがいえるだろうとQさんは考えていて、実はプロよりもコレクターの方が有利な立場にあると語っています。


恐るべき慧眼です。