吉川幸次郎という京大教授だった著名な中国文学者が、中国留学時代の思い出についてインタビューを受けた記事が載っています。
その中で、彼が大学生の頃、つまり1920年代の中国書籍は安かったのですかとインタビュアーが聞いているところがあります。インタビュアーは単純に昔の方が本の値段が安かったのではないかと思ったのでしょう。
吉川幸次郎はこう答えています。
「そうですねえ。いまの中国の本ほど安くはない。とにかくいまの中国の本、世界中で一番安いでしょうな、違いますか」(p.49)
インタビューが行われたのは、1974年です。
吉川幸次郎はこの後、1980年に死去します。おそらくこのインタビューに答えた時期が、彼が青年時代から一貫して買い続けた中国書籍の値段が最も安かった時期だと思われます。
この一事から、中国が文化大革命の大混乱のどん底にあるときに、ほとんどの中国国内の物の値段が下落したことが推測できます。
このときの中国に何らかの形で投資できていたら……、というのは実現不可能な妄想ですが、もしこの時期の中国がどん底の状態にあるということにいち早く気づいていたら、中国市場が開放されると同時にスタートダッシュで投資することができたはずです。
歴史は繰り返す。
日本の近くに今まさにどん底の状態にある国がありますよね。
かの国の現況を見るに、私はどうしてもそこに昔の中国の姿を連想します。