結論から先に書いてしまうと、王国維の驚異的な学問的成果は、個人的、時代的特性を最大限に発揮したために後代の人々が模倣できない領域にまで達しました。


具体的に言うとどういうことか?


中国は近代期になって初めて哲学、美学、文学等の西洋学問の本格的な流入が始まりました。


それまで中国で人文科学系の学問というと、自国の古典文献学しかなかったのです。


青年期の王国維は各種学校での教育業務の傍ら、大量の西洋思想文献の翻訳を行っています。


これによって同時代の中国人に先駆けていち早く、現代にも通じるような批判的、実証主義的な視点を持つことができたのです。


既に西洋哲学的な実証主義的思考方法に慣れた今日の私たちからすると、それは当たり前過ぎて別段特殊なことではないように感じますが、近代に生きる中国人からすると、極めて異例な思考方式でした。