言語能力以外にも外国人労働者にとって日本市場参入への大きな障壁となるものがもう一つあります。


それは彼らが日本企業でのビジネス上の習慣や業務上の常識といったものを身につける機会を本国で持っていないということです。


これは単なるビジネスマナーのような儀礼的なものとはまた違った感覚で、日本で働いたことがある人ならまるで「空気」のように共有しているようなものです。


言葉で説明するのは難しいので、昨年私が働いた冷凍食品製造工場のケースで一例を示します。


そこの工場は24時間稼働ではないのですが、工場を閉めているのが、ほんの3~4時間といったくらい長時間稼働しています。


製造現場の社員は二交替で勤務しているのですが、夜間の勤務体制はやはり若干手薄になりがちです。そこで部署によっては、管理職が常駐してなくて、中国人研修生と若干の日本人のパートさんと派遣だけで回しているところもありました。


その部署にちょっと私も回されたときのことなのですが、多少仕事が手薄になった中国人研修生が座る場所を見つけてどっかり腰をおろして眠り始めたのです。


しばらくすると、同じく仕事が手薄な中国人研修生がまたもどっかり腰をおろして眠り始めました。


わずか2メートルも離れないところでは、あたかもアスリートの如くせわしなく働いている同僚がいるのに……。


私は最初具合が悪いのかと思いましたが、「単に眠いから寝ているのだ」ということが次第に分かり、肝を冷やしました。そんな場面にいたら、ただの派遣のおじさんなのに管理責任を問われかねません。


もっともそういう人間しかいない場面だから、彼女たちは寝たのでしょうが、一番長く寝た奴はたっぷり30分以上は寝ていました。


中国人もピンからキリまでいますし、中国企業も日本企業よりはるかに技術もお金も持っているところもあります。


だから「中国なんて……」というステレオタイプな見方は意味がないのは間違いないのですが、日本人的常識からは理解できないことが外国人労働者と仕事していると起こります。


この類のケースを中流サラリーマンで中国の工場に頻繁に出張していたときも数多く目にしました。


これは個人の素質の問題というよりも、単に日本のような環境で仕事をしたことがないというだけのことだとは思います。


しかし、言葉もあまり通じない上に、この類のような行動を取られると、経営者にしろ一社員にしろ、「なんなのかね、あの人達は……」という感情が芽生えるのは仕方のないことではあります。


つまり、いかに労働賃金が安かろうとも、ただそれだけで日本の労働市場を外国人が支配できるということには少なくとも近い将来では到底ならないだろうと私は思っています。


日本の労働市場の城壁は中にいる私たちが気づいてないだけで相当分厚いのです。